最近では、特許という言葉もそれほど特殊な響きはなく、耳なれたものとなってきたようです。しかし、一口に「特許」と言っても、実はその意味内容はさまざまです。特許権、実用新案権、意匠権、商標権を併せて工業所有権と言いますが、これらを総合して「特許」と呼ぶ場合があります。
「特許庁」は特許、実用新案、意匠、商標に関する登録官庁ですが、それらをまとめて「特許」で代表される名称になっているわけです。「特許部」「特許事務所」「特許管理」「特許制度」あるいは「特許政策」なども工業所有権全般を指すのが普通です。もっとも、「特許部」と「意匠・商標部」が併立しているような場合には、「特許部」は特許と実用新案を対象とすることを意味するものといえるでしょう。
ついでながら、特許の対象になるのが「発明」であり、実用新案の対象になるのが「考案」であり、そして意匠の対象になるのが「意匠の創作」です。この3者が「創作」を対象としているのに対し、商標は「創作」を対象とするものではありません。したがって、そのルールも前3者と後者ではだいぶ異なる点かあります。たとえば、特許権、実用新案権、意匠権はいずれも権利存続の期間が定められていて、それ以上長期にわたって権利を保持することはできませんが、商標権の場合は権利存続期間の更新登録をすることによって、いつまでも権利を存続させることができます。
「開発の成果を特許出願する」とか「この技術について特許調査をする」というような場合の「特許」は特許と実用新案の両方を意味しています。「特許の調査」を指示されたのだから「実用新案」の調査はしなかったということでは片手落ちと言わなければなりません。「特許では無理かもしれないが実用新案なら通るかもしれない」などと言う場合の「特許」は厳密に「特許権」のみを意味しているわけです。
慣れるとおのずからわかるものですが、このように、「特許」と言っても使い方によって広義、狭義があり、文章の前後から意味内容を判断しなければなりません。使用方法が多少乱れていても、その意味するところが理解できれば意思の伝達はできるわけで、ある意味ではそれでよろしいとも言えるでしょう。しかしできることなら、用語は常に正しく使用したいものです。
「これはいいアイデアだ。特許は出したか」と。意味はわかりますが、これを正しく言いかえると、「これはいい発明だ。特許出願はしたか」あるいは、単に、「出願はしたか」ということになります。「特許をとるための出願はしたか」と言いたいのでしょうが、「特許」は特許出願をし、所定の経過を経て取得するものですから、「特許を出す」というのは正しい言いかたとはいえません。後に書きますが、「公開」と「公告」の区別が判然としない場合も困るのです。さらに、出願番号、公開番号、公告番号の区別も明確にしないと実務上大きな混乱を招くことになります。